東京ドーム7個分(約32ha)に相当する豊かな緑地が残り、横浜最大のホタルの自生地としても知られる、横浜市栄区上郷町の上郷・瀬上沢エリア。この緑地で、いま東急建設株式会社による大規模な開発が進められようとしています。この開発計画に対して、市民投票(住民投票)の実施を視野に入れた活動を行う「横浜のみどりを未来につなぐ実行委員会」が立ち上がりました。
詳しくは下記の現地レポートをお読みください。
横浜市栄区、上郷・瀬上沢の東急建設の開発について住民投票に向けて受任者募集
栄区上郷町瀬上沢は横浜市の最南端に位置しており、東側に横浜市金沢区、南側は鎌倉市と隣接している。京浜東北線のJR港南台駅から徒歩20分、歩行距離で約1.5kmの場所に上郷・瀬上沢エリアがある。瀬上沢の東側に瀬上市民の森として横浜市の特別緑地保全地区に指定されているエリアがある。瀬上市民の森から東側と、横浜横須賀道路の西側の間には、約116haの円海山近郊緑地特別保全地区に指定されている緑地帯が拡がっている。瀬上沢は円海山周辺緑地帯への入り口となっており、大丸山や朝比奈切通などを含む一連の連続した緑が横浜市栄区、金沢区、鎌倉市、逗子市に拡がる。
東急建設が横浜市に提出した都市計画提案(PDF)によれば、この瀬上沢の緑地帯、約31.9haのうち、都市計画道路、舞岡上郷線の西側ほぼすべてと、東側の神奈川県立栄高校南側部分の約12.5haを市街化調整区域から市街化区域に変更して1,000人弱の住宅地と、商業施設、クリニックモール、公園などからなる大規模な宅地造成をして、東側の緑地帯は特別緑地保全地区として保全するという提案である。平成28年11月8日に行われた横浜市主催の都市計画市素案説明会の資料(PDF)によれば、提案者は東急建設株式会社で同意者が82名となっている。都市計画法第21条の2の「都市計画提案制度」は住民など地権者が都市計画に積極的に関わることを促すために追加された制度である。用地買収をしている東急建設が地権者として都市計画提案しているようだ。資料によれば平成19年にも東急建設は提案を行っており、2,050人、660世帯分の住宅地としての開発申請を行っていたが、平成20年に不許可となったため、今回は開発範囲を縮小して改めて都市計画提案したようだ。
平成28年11月8日に行われた横浜市主催の都市計画市素案説明会の資料(P8)
平成28年11月8日に行われた横浜市主催の都市計画市素案説明会の資料(P24)
横浜市は東急建設の提案について、①東側の自然的環境の保全を図るエリアとして、公園や特別緑地保全地区に指定することで、里山景観を永続的に保全できる、②舞岡上郷線沿道を開発し、商業施設等を設けることによって周辺市街地との一体性の強化が図れる、③環境にも一定の配慮がされている、など地区の将来を見据えたバランスに配慮した計画と評価している。市街化調整区域を市街化区域に変更するエリアを一部修正することで、東急の都市計画提案を概ね受け容れて、都市計画決定する手続きに入っている。
この開発が、横浜市にはどんなメリットがあるのだろうか?1000人規模の住宅地、ショッピングモールなどを開発して人口増加を狙い、地域を活性化したいという狙いがあるようだ。人口増加して定住する住民を増やすことが税収の安定につながる。横浜市の人口統計ポータルサイトによれば、横浜市全体として人口約373万で現在も微増している。港北区、鶴見区など北側の都心に近い区が人口増を牽引しているが、南側の港南区、栄区、金沢区などは人口減少が始まっている。栄区は、2011年1月1日の124,919人をピークに毎年減少して2017年1月1日には、121,362人と、6年間で▲3557人、▲2.8%人口減少したエリアだ。港南台駅は横浜駅までは25分、東京駅までは55分程度の立地にあるものの、港南台駅から、上郷・瀬上沢の開発予定地まで歩行距離、約1.5km、徒歩20分の立地であることを考えると立地は良いとはいえず、「将来を見据えた」開発計画というのは無理があるように思える。
横浜市は先進的な緑地保全の取り組みに力をいれている市でもある。「横浜みどり税」の条例があり、平成21年から納税者1人あたり毎年900円の税金を市税に均等に上乗せして、毎年約24億円の財源を確保して、緑地の保全に力を入れている。
上郷・瀬上沢の開発地現地の舞岡上郷線の両側が谷となっていて湧き水と、小川に囲まれた水と緑が豊かな湿地帯である。宅地造成するためには、大量の土を盛り埋め立てる大規模な環境改変になる。みどり税の理念とは反する大規模開発になるが、横浜市が環境にも一定の配慮をした計画と言えるのは何故だろうか?
舞岡上郷線西側の湿地帯、開発計画では埋め立てられ住宅地になるエリア
舞岡上郷線から西側を撮影。
写真の歩道の奥が宅地造成されショッピングモールや住宅街となる開発予定エリア
舞岡上郷線の東側、公園などグリーン・ゲート・ゾーンとなる開発予定地
東急建設は、用地買収がすすみ地権者との調整が終わっているため早く開発を行い、ビジネス化したいということは容易に想像出来る。しかし、市街化(宅地化)を抑制するエリアである市街化調整区域を、市街化区域に変更する都市計画提案するというのは強引なやり方と言わざるを得ない。横浜市の行政だけではなく、横浜市民や、上郷・瀬上沢を訪れる人々にも受け容れられる計画といえるのだろうか?
東急建設は、資本金163億円、従業員2,464人、渋谷駅南街区プロジェクトなど東急電鉄グループとして参画している一部上場企業である。CSR活動も熱心な会社で、東急グループとしての「環境憲章」を制定しており、環境保全活動の着実な実践を掲げている。また生物多様性に配慮するための独自のエコロジカル・コリドー簡易評価ツールなどをアピールしている。上郷・瀬上沢の開発が東急グループの企業イメージを悪くすることにならないか懸念される。
横浜のみどりを未来につなぐ実行委員会は、今後どのようなアクションをするのだろうか。まずは、市長との対話の場をもって共に横浜の未来を考えたいとしている。また代替案として、横浜みどり税を利用して上郷・瀬上沢地域の土地を買い上げるという記述があることから、市長との対話が不調に終わった場合は、東急建設・横浜市による上郷・瀬上沢の開発をすすめるか、横浜市が横浜みどり税などを財源に東急建設から土地を買い上げて特別緑地保全地区として保全するかの2択で問う住民投票を行うことを視野に入れているのだと思われる。
地方自治法による住民投票は、横浜市在住の有権者の1/50の署名を2ヶ月以内に集める必要がある。2017年6月1日現在の横浜市の有権者数は、3,091,550人。1/50の61,831筆の署名を集めないといけない。さらに横浜市議会での可決が必要となる。
横浜市に残された貴重な上郷・瀬上沢の環境、約31.9haをどう扱うのかは、横浜市全体で投票する問題であるかは議論が別れるところであるが、開発案件は、平成23年及び、平成26年の都市計画法の改正によって、都市計画区域を市街化区域(市街化するエリア)と市街化調整区域(市街化を抑制するエリア)に分ける「線引き」及び、「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」(整開保)について、神奈川県から横浜市に都市計画決定する権限が委譲されたことのよって、「線引き」の見直しとともに検討されていることを忘れてはいけない。
上郷・瀬上沢の開発案件の行方が今後も市街化調整区域の緑地を開発するか、保全するかについて先例となるという視点で考えると、上郷・瀬上沢の開発案件のためだけの投票ではなく、横浜市に残されている貴重な緑地をどう扱うかを、横浜市民全体で考えるための投票と言えるだろう。住民投票を求める活動の中で、上郷・瀬上沢を多くの人が訪問して開発と環境保全の問題について議論が深まることが期待される。
住民投票条例の制定を求める署名活動を行うためには、横浜市民の有権者が、受任者としての登録する必要がある。横浜のみどりを未来につなぐ実行委員会が現在、受任者を募集している。横浜市民の有権者で関心のある方は、ホームページから受任者の仮登録を。
(文・写真:神尾直志)